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元銀行「融資課長」の行政書士が教える~『法定相続情報証明制度』ってナニ?その②2017.04.11

【 遺産分けで公平性を追求=預貯金も一緒に遺産分割対象に 】

 今年に入ってから、家族間のもめごとや面倒な手続きがつきものの「相続」に影響を与える判例の変更や制度の創設に注目が集まっています。それは、より公平な遺産分割のあり方を示した昨年末の最高裁決定と、相続財産の名義書き換え等の簡素化を目指す法務省の取組みのことです。高齢化が加速する中で、相続の円滑化に向けて国も動き出した形です。

(1)「遺産は公平に分けることが大事です。遺族の皆さんでよく話し合って下さい。」これが私達の基本的なスタンスであり、遺産を巡る悩みを抱えて来られる相談者に対して、まずはこの様な説明をするようにしています。

(2)しかし、このごく当たり前な話しに思えることを、わざわざ強調するのには訳があるのです。それは、平成28年12月19日の最高裁大法廷で、『裁判所での審判で相続の取り分を決める「遺産分割」の対象に、預貯金は含まない』としてきた判例が変更されたからです。

(3)すなわち、遺族間で争われた審判の決定で、『預貯金は遺産分割の対象に含む』とする初の判断が下されました。相続の話し合いや家庭裁判所での調停では、預貯金を含めて配分を決めるケースが多い為、実態に沿った見直しとなった形です。

(4)この判断は、裁判官15人の全員一致の結論でした。過去の判例では、『預貯金は不動産や株式など他の財産とは関係なく、法定相続の割合に応じて各相続人に割り振られる』としてきました。また最近でも、平成16年の最高裁判決で『預貯金は法定相続分に応じて当然に分割される』とまでいっていました。

(5)今回の最高裁大法廷では、決定理由の中で『遺産分割は相続人同士の実質的な公平を図るものであり、できる限り幅広い財産を対象にするのが望ましい』と指摘して、『預貯金は遺産分割の対象にするのが相当だ』と結論づけました。

(6)新たな判例に従った場合、「兄は土地と建物、弟は預金全額」といった柔軟な分割もしやすくなります。

(7)元々の今回の争いというのは、「特定の遺族に多額の生前贈与があった場合の、不公平な遺産分割の解消」がことの始まりでした。『預金約4千万円の相続をめぐって遺族2人が争い、1人が故人から生前に5千万円を超える贈与を受けていました。その為、もう1人の女性が「生前贈与を考慮せずに法定相続分に従って預金を2分の1(約2千万円)ずつ分けるのは不公平」と主張していた』というものでした。

(8)1,2審は過去の判例に沿って女性の主張を退けましたが、最高裁大法廷では「2審の決定を破棄し、預金の分け方などを見直す為に、審理を2審の高裁に差し戻す」決定を下しました。

(9)国税庁によると、相続財産全体に占める現預金の比率は約31%で、不動産の約43%に次いで高く、「相続でもめる要因になりやすい」のが実情です。さらにここ10年ほど、裁判所に持ち込まれた遺産分割のトラブル件数は、右肩上がりの状況が続いています。最高裁が遺産分割のあり方を見直す必要性は、もともと高かったというわけです。

(10)今回のケースに限らず、相続での「生前贈与の有無」が不公平の原因となる事案が目立っていた為、「生前贈与も十分考慮して慎重に分け方を決めるべきだと最高裁も考えている」のではないでしょうか。

(11)これまで説明してきたように、遺産の扱いというものがいかに遺族にとって難しい問題なのか、ということは理解いただけたと思います。そこで「手続きをいかに簡素化するか」ということを象徴するような見直しの動きが、政府内でも起きてきました。

(12)この様な流れの中で、法務省では、「その①」の前回記事にもあるように、5月下旬から新たに「法定相続情報証明制度」という仕組みを導入する運びとなったものです。なにかと煩雑な相続にまつわる手続きを、少しでも簡素化するための一策となるのではと期待されています。

◎それでは、この『法定相続情報証明制度』というのは、どの様な仕組みとなっているのか?これについては、次回とさせていただきます。