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元銀行「融資課長」の行政書士が教える~『遺言書と遺産分割協議書は、どっちが優先なの?』2016.09.14

無料相談会やHPを通じていただく相談内容の中で、最も多いのが「遺言・相続関係」のご相談で、その中でも「遺言内容と遺産分割」について、疑問を持たれている方が非常に多くなっています。そこで、これらについての基本的な説明をさせていただくことにしました。

【 年々増加する遺言書作成件数 】

(1)遺言・相続に対する関心の度合いは年々高まってきており、平成26年1月~12月に全国の公証役場で作成された遺言書(公正証書遺言)は、10年前と比較すると約4万件も増加し、ついに10万件を超えました。

(2)また、家庭裁判所で扱われた「遺産分割事件」についても増加傾向にあることから、遺言書の作成の増加にも影響を与えているのではないかと思われます。

(3)故人の遺志をできる限り尊重したいところですが、遺言書を書いた時点と相続時では、家族の状況が変わってしまっていることもあります。

◎では、遺言書の内容と異なる遺産の分割は可能なのでしょうか?

【 遺言内容と異なる遺産分割は可能なのですか? 】

(1)相続人の間で遺産の分割方法について話し合うことを「遺産分割協議」といい、その結果を書面にしたものを「遺産分割協議書」といいます。

(2)判例では、

① 遺言によって遺産分割を禁止している場合、

② 遺言執行者が選任されている場合、

①・②の場合を除き、遺言内容と異なる遺産分割協議をすることは事実上認められています。

※実際に、遺言内容と異なる遺産の分割方法を協議することは珍しくありません。

(3)ただし、「遺産分割協議書」の内容が有効となる為の基本的な条件としては、相続人全員がその内容について同意していることが必要になります。一人でも反対の相続人がいると、有効に成立したことにはなりません。

(4)実務的には、「遺産分割協議書」に相続人全員による署名と押印(実印による)、発効日が3か月以内の印鑑証明書の添付を要します。

(5)しかし、だからと言って「全ての遺産分割協議書が遺言書に優先する」という意味ではありません。それは、遺言の内容によっては注意が必要だからです。

【 遺産の分割方法が指定された遺言書 】

(1)過去において最高裁では、「特定の財産を特定の相続人に相続させる内容の遺言の場合、遺言者の死亡によって、財産は直ちに確定的に相続人に帰属する」とした判決がありました(平成3年4月19日 最高裁判決)。

(2)「特定の財産を特定の人に相続させる内容」とは、例えば「長男のA男に、千葉県〇〇の土地を相続させる」というのがこれにあたります。

(3)この場合、その後に行なった遺産分割は本来の意味での「遺産分割」ではなく、「相続人間の取引ということで財産が移転するものだ」とされています。

(4)その結果、不動産の相続登記をする際には、遺産分割協議の結果を直ちに登記することができません。まずは「遺言に基づく登記」をした後に、「相続人間の取引による登記」の二段階での申請をしなければならないなど、相続事務に支障をきたす場合があります。

◎この様なケースでは、手続き費用も手間も、二重にかかってしまうので注意が必要です。